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医師転職サイトドクターズアヴェニューHOME > エッセイ > 月巡り vol.2
2007年11月02日
巨大カレイ、ハリバット釣りで有名なホーマー(Homer)は、アラスカの玄関口アンカレッジから飛行機で40分程の場所にある。飛行機でというと遠く感じるが、アラスカで飛行機は自動車に次ぐ移動ツールで、自家用プロペラ機を持っている一般人(富豪ではなく)の割合は全米で1位らしい。有名なアラスカ鉄道があるが、アンカレッジとフェアバンクスを縦につなぐ一本だけで横に伸びる路線がない。アラスカ全土を100%とすると、人間が住める土地は2%に満たず、それも凍土に飛び石で存在するので上を飛ぶほかないのである。かといって飛行機代は安くもない。資金が充分ならいいが、卒論のフィールドワークに名を借りたバックパッカーには一か所移動するにも自分のなかの良識家と冒険家とで大議論である。先住民への取材を手助けしようと申し出た、飛行機で隣に座っていた48歳男性、港町ホーマーに家族で建てたログハウスに住む彼は、一か所の移動にも悩んでいた私には渡りに船であったのだ。しかし、女性関係で百戦錬磨といった雰囲気が警戒感を募らせる。
悩みながらうたた寝をしている間にアンカレッジに着き、同時多発テロ後の長蛇の入国審査を潜り抜けた頃には、旅先の祝福感で浮き足立っていた。出口に据えられている、ファイティングポーズのホッキョクグマの写真を撮ったり用もなくうろうろしていると、機上の彼が私を探していたらしく小走りで近付いてきた。予約しているゲストハウスまで行くバス停の場所と乗り方をこと細かに教えてくれたあと、チケットを一枚手渡した。
「これは200ドルまでのフリーチケットで、ホーマーまでの片道に使える。もし来る気になったら、いつでも来なさい」
ここから話は冒頭に戻る。浮かれてうろうろしたため、バスを逃して1時間近く空港で待つことになった。朝の9:30に着いて、入国審査が終わったのは13時過ぎ。バスを逃して、時計は3時を回っていた。お腹がすいて食べた自販機のパンは甘すぎて気分まで悪い。知らない場所で乗るバスは心細い。さっき、機上の彼からバスの乗り方は聞いたが、変更されていないか確かめようとツーリスト・インフォメーション(観光客の窓口)に居た年配の先住民女性に声をかけてみた。心細かったのも大いにある。なんとなくカウンターで世間話をしていると、彼女は先住民ではなく在米40年の日本人だった。しかも出身は大阪という。相当長い間日本語を使っていないのか、アクセントは英語化している。アラスカでは、デナリ(マッキンレー山)を見に?と聞かれて、卒論にアラスカ先住民をテーマに選んだと答えると、彼女は私財を投じて先住民の権利を保護するNGO団体(Alaska Mental Health)を率いているのだという。このツーリスト・インフォメーションには、週に2回、ボランティアで来ていて、今日は他のボランティア女性が風邪をひいたピンチヒッターで来たらしい。きっと、私はあなたの役に立てると思うわ、と興奮して言う彼女を見ながら、ひょっとして、私はすごくついているのかも知れないとぼんやり思った。
しかし、彼女はあさってから1週間ワシントンへ行くらしい。