医師転職・医師求人

プレスリリース | よくある質問と答え | お問合せ | サイトマップ


天狗の音

2007年06月01日

休みの日は寝ている。目が覚めると夜である。うとうと食事をして、何を口に入れたのかよく分からないままお風呂に入り、横になったら月曜である。一週間雷が光るように過ぎ、気づいたらまた日曜の夜である。不毛である。
連休、さすがに寝るのも厭きた最終日に友達と鞍馬山へ出掛けた。この寝ぎたない目が天狗の潜む山を見るのもはしたない気がしたが、京阪電車の鞍馬・貴船ポスターも、モデルは天狗ではなくお洒落な若い女の子である。私でも造作なく登れるだろう。
京阪の北浜で友人と待ち合わせ、お弁当や飲み物を買って涼しげに電車に乗り込むつもりが、携帯電話で友人の居場所を確認しながら構内をさ迷っているうちに一駅戻って淀屋橋まで来てしまう。やっと巡り会って食べ物をあれこれ買い込み、慌てて電車に乗る。
連休の特急は予想通り混んでいたが、出町柳で京都観光の面々は降り、鞍馬へ向かう叡山電鉄(叡電)は空いているだろうと高をくくっていたら、下車した殆どが叡電へ一緒に乗り換えた。しかも初夏の陽差しに映える若い人ばかりだ。若者を鞍馬山に引きつけるために20歳くらいの女の子をポスターに使ってるのかと思っていたが、若い観光客は珍しくもないらしい。納涼床が始まったばかりの貴船では、京都の町中にあるようなカフェもあった。

鞍馬駅で叡電を降り、何も考えず人の後をつらつらつけると山門に着く。途中、土産物屋を覗くとどの店も牛若丸の竹笛を置いている。本当に音が出るのか吹いて確かめそうになるが、大人気ないので自重する。人ごみに従っていると、どのみちゆっくり土産物屋を冷やかす時間はない。
山門を過ぎると、麓と山頂を結ぶケーブルカーがあった。今思えばそれだけの険しさを忠告しているが、観光地の安直なサービスだろうと駅を横目にどんどん歩く。しばらくすると、修験者が滝行をしたという魔王の滝に差し掛かる。つい数日前にひどい雨が降ったはずだが、どこに水が落ちているのか見えないほど流れが細い。日が経ち、山の水系に変化が起こっているのかも知れない。落石の危険があるので修行はご遠慮ください、という注意書きがあったが、落石の不安を克す修行か、衆目を忘れる修行にしかならないだろう。
勾配が上がるに従って息も上がる。木の古いベンチが見えたので腰を掛けた。息が静まるにつれ、山の空気を破って上方から時々無気味な音がする。動物園で聞いたライオンの咆哮に似ている。友達と同時に音がする方を見上げるが、何もない。そのまま上方を眺めていると、無気味な音がたつとき葉の揺れが激しいことに気づく。風を受けた木の葉が一斉にそよぐ訳ではなく、木々の中、数本の木の枝で何かが踊っているように揺れている。風が木々の並びに裂かれ山の斜面で増幅し、このようなおどろおどろしい音をたてる突風に変わるのかも知れない。ぼんやり躍る葉先を眺める。
この時、ようやく鞍馬の天狗が腑に落ちた。この風と木々の揺れ、山間を脅かす無気味な音は、山を飛びまわる大天狗以外に説明のしようがなかっただろう。
天狗の由縁に思いを馳せ得意でいたのも束の間、修験者の山に微塵の甘さもなく、息を切らせてようよう山頂を越え下界へ辿り着いた。轟音はだいぶ麓へ降りるまで止まなかった。
天上から戻り、しばらくは疲弊の中に不思議な清新さを身体に感じていたが、やはり休日は夕方まで眠っている。


 

| 個人情報保護方針 | ご利用にあたって | 推奨環境 | 会社案内 | 広告掲載について | リンクについて |