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医師転職サイトドクターズアヴェニューHOME > エッセイ > 南国の花を煮る
2008年07月01日
ドリアンを買う日本人はたいてい騒いでいるか顔がこわばっているそうで、あのトゲトゲだらけの果皮に鼻を寄せて、強烈な臭気にまた騒ぐ、か、顔を益々こわばらせる。東南アジア人は、というよりアジア人にはあまり根っから深刻な人はいない気がする。フィリピンやマレー辺りに行けば、今でも戦前の日本にもよくいた(らしい)、日がな一日何もしないで縁側で通りを眺めているような、百年一日のような、仙人のような、怠け者のような大人がまだまだおり、ドリアンに群がる日本人はちょっとした見物になっているようだ。臭気の強い、臭くて不味いドリアンを売れば売るほど騒ぐので面白いらしい。サービス精神か、美味しいものは人に食べさせないケチ魂か、東南アジアへ旅してドリアン嫌いになって帰って来た人の殆どは、不味いドリアンをつかまされ、横で邪気なく笑われていたに違いない。ドリアンはスイカやメロンと同じように当たり外れが極端で、不味いドリアンはどれだけ鈍感な人が食べても、たぶん体調に異変をきたす。反面、上級のドリアン(ドリアンには等級がある)は、匂いは強烈だが、不味いそれとははっきりと違う。果物の王というより南国の王、喉をすべる豪奢に押し黙ってしまう。好き嫌いは別れるだろうが、あの果物を簡単に嫌ってしまう人を知ると腹が立つより気の毒だ。人生に恋も絵も音楽も必要ないのか、どうせ嫌うなら復讐する勢いで憎んだほうが王様には相応しい。
プワゾンというフランスの香水があるが、あれは南国の空気を再現したのだと思う。手で掴んで忘れさせない強引さは西洋のものだけれど、全ての南国の花を煮詰めたような匂いは東南アジアそのもので、通りを歩いて派手目のお姉さんとすれ違ったとき、無性にバリ島が恋しくなるのはその香りのせいかも知れない。
ドリアンは食べ過ぎると死んでしまうらしい。アルコールと一緒に食べても危ない。果肉を舌でこそげるときの、あの幸福に満たされて死ぬなら本望と思うが、死ぬときはお腹が張って相当に苦しいらしい。威嚇的な姿と人を苦悶の死に至らしめる果物、南国の王への想いは恋というより信仰に近い。